蒼い日々の中で

オーストリア、ザルツブルクで指揮者になる修行中の水野蒼生が綴る散文たち。

僕がクラシカルDJとしてメジャーデビューした理由

 

本文を書き始める前に、まず最初に言わせてほしい。

 

一番驚いたのは僕だ。

 

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賞歴もない、知名度もない、日本国内での学歴だって高卒どまり。

 

ただちょっと奇抜なアイデアがあって、それを猪突猛進で形にする意地があるだけだ。

 

そんな自分がまさかドイツグラモフォンからアルバムを、しかもドイツグラモフォン120年の歴史上初の、というか全世界史上初のクラシックのDJミックスアルバムを堂々リリースする事になるだなんて、「なんのドッキリだ????」

 

という感じに、このプロジェクトを任されたときはスケールの大きさに戸惑ったりもした。

 

仮に今の自分が、1年前の自分の元に現れて現在のネタバレをしてもきっと「冗談言ってないでやる事やれよ」と一蹴されるだけだと思う。

 

でもそれが今こうしてドヤ顔で自作のアルバムを片手にリリース日を迎え、「俺はコイツでクラシック界の風穴を開けてやるんだ!」と息巻いているのだから、人生ってのは本当に面白い。

 

そんな僕の、この気持ち悪いドヤ顔が生まれるまでの経緯をこれから書いていこうと思う。

 

 

 

ことの始まりは今年の2月。ザルツブルクの大学の1ヶ月間の休暇で一時帰国をしている時の話だ。

 

帰国してすぐ、自分が主催する「東京ピアノ爆団」の3度目の公演があった。いつもの吉祥寺はスターパインズカフェで、いつも以上にお客さんの入った熱い夜。

 

f:id:aoi_muzica:20180905120654j:plain©︎Mugi Murata

 

自分のDJパフォーマンスを終え、いつものように客席の後ろで他のメンバーのステージを観ていると、DJ良かったです」と声をかけられ、名刺をもらった。

 

これが僕とユニバーサルミュージックの出会いだった。

 

そこでドイツ・グラモフォンが今年120周年を迎えたこと、そのための新しい企画を探していることをざっと聞いて、後日詳しい話を聞きにユニバーサルの本社に伺った。

 

僕とレーベルの間には「クラシック音楽の入り口を開く。」という共通した意志があったので大幅なすり合わせや妥協はなかった。

そしてこの短い日本滞在の間にアルバム製作の話はすんなりまとまり、4月のイースター休暇で帰国し、ジャケットの撮影をする事が決まって再び僕はザルツブルクに戻った。

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というのがこの大プロジェクトの始まりだった。

 

ここでもう一度言わせてほしい、

 

一番驚いたのは僕だった。

 

いや、頭では確かに理解していたんだ。うん。直接的には、なんとかギリギリ。

 

でもただの学生にとっては現実味があまりにも無さすぎた。

 

話がデカすぎてついていけない気持ち。

 

「これって本当に俺の人生なの?」

 

それと同時にだんだん「クラシック界最大の老舗レーベルの名を背負う」というプレッシャーも自分の中でじわじわと大きくなっていく。

 

頭で理解できても心が追いつかない。そんな日々が長らく続いた。

 

 

もちろん、それはとても、とーっても嬉しいことであったし、確かに僕が描いていた夢のひとつだ。でもそれはもっとじわじわとキャリアを積んでからの話だろうと思っていたんだ。一応これでも現実的な性格だから、自分の身の丈は十分分かっている筈だった。

 

「そうだ、これはドッキリだ、ドッキリに違いない!!!!」と心の何処かでずっと思っていた。

 

周りの友人に話すにも話せず、延々と自問自答をしているうちに3月の暮れ、イースター休暇が訪れた。

再びの帰国のための荷造りをしている時も、心の中では「これは多分大掛かりなドッキリだ!」と囁く悪魔がいて、そのドッキリ悪魔を心に抱えながら空港に向かう。

 

それでも先方が手配してくれたチケットで何不自由なくチェックイン出来るし(当たり前だし、失礼な話だけれど)ゲートにも難なく入れてしまった。そして日本行きの飛行機の座席に腰をおろした瞬間にようやく理解した。

 

「………ドッキリじゃない!!!???」

 

ひと月半遅れでようやく心の疑念も晴れて、すべてを心で理解した。

 

そうだ、クラシックの入り口を開く人間として選ばれたのは、僕なんだ。

 

ライブハウスにクラシックを持ち込み、クラウドファンディングでオーケストラを作り、ひたすらクラシックを同年代に当たり前に聴いて欲しいという願いと、クラシックを広めるという勝手な使命感を持って発信し続けてきた自分が選ばれたんだ。

 

自分にしか出来ないことなんだ。

 

疑念が晴れたということは、覚悟を決めることと同義でもあった。

 

クラシック界最大のレーベルの旗を背負い、先陣を切ってクラシックの入り口を開いていく。

その責任ある使命に真正面から向き合い、プレッシャーを心の中で飼いならす、その覚悟を自覚するための時間だと思えば、ひと月半という時間は決して長いものでは無かっただろう。

 

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それからはひたすらに自分の信じる芸術を作り続けるだけだった。ザルツブルクでは学業以外の時間はほぼ全てこれに費やし、日本では生活の些事すべてを投げ捨て昼も夜も命をかけて作り続けた。

 

そうして完成したのが、Millennials -We Will Classic You- - Aoi Mizuno なんだ。

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製作作業はただただ孤独なものだったけれど、使わせてもらったDGのアーティストたち、そしてその曲を生み出した作曲家たちみんなと一緒に作った気持ちで、いまでは「自分の作品」というより「自分たちの作品」という気持ちが大きい。

 

そんな僕らのアルバムが遂に今日から全国で発売開始となった。

 

一部の人たちに小難しく批評されるよりも(それが賛美であろうと)、僕の願いはこの作品が広く多くの人たちに聴いてもらえることだ。「クラシック興味あるんだけど、色々難しくて何から聴いていいか分からないんだよね~」なんて思ってる人は実は多い。そんな人たちにとってこれが入り口になれば僕は本望だ。

 

昨夏、僕は「クラシックの入り口、開きます。」というキャッチコピーでクラウドファンディングに挑戦した。そして今、このアルバムが「クラシックの入り口」だと、自信を持ってドヤ顔で言える。

 

俺はコイツでクラシック界の風穴を開けてやるんだ。

 

 

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