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新しいこと。

長いこと僕はずっと、このブログに雪の日の思い出を書き殴ってきたけれど、もう外は初夏の太陽がギラギラと街を照らしていて、エアコン文化がないこの国に少しの苛立ちを覚える季節になっている。

 

今日僕がここに書きたいのは、過去の記録ではなくて未来にある新しいことについて。

そして、その新しいことに関するあなたへのお願い。

それをどうしても伝えたくて僕はまた拙い文章を綴っている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この春にO.E.Tという新しい室内オーケストラを東京で仲間たちと立ち上げました。

オーケストラ・アンサンブル・東京の頭文字をとった名前のこのO.E.Tは「クラシック音楽の入口を開くカギとなるオーケストラ」として、今後東京を拠点に活動していきます。

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そしてこの夏、7月20日には結成記念公演"Opening"を、渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて開催します。

演奏する曲は全てベートーヴェンの作品に絞りました。

欧州からのゲストソリストを迎え、20代のトッププレイヤー達が集うオーケストラが本気でベートーヴェンの音楽に挑む、中々に豪華な船出の公演になると思います。

f:id:aoi_muzica:20170524084438j:imageイラスト©︎ゆの 

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ホールを抑え、メンバーを集め、練習場所を探し、フライヤーを作り、中々骨の折れる仕事を日本にいる仲間達と手分けして今日まで地道に進めてきました。


そしてここからが新しいステップ。
僕たちの新しい挑戦が明日、5月24日から始まります。

 

今回僕らはクラウドファンディングという形でコンサートの資金を集めます。

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23歳になりたての若造には無謀な挑戦だって思う人も多いと思います。ビジネス経験なんて皆無と言っても過言じゃない。もちろんファンディングなんてこれが初めて。

それでもこのクラウドファンディングならより多くの人に僕らの愛する音楽を、僕らの野望を知ってもらえる。

そしてこのクラシック音楽をより多くの人に届けることができる。

だから僕はこのオーケストラO.E.Tの命運をクラウドファンディングに賭けてみようと思ったんです。

 

[凄腕若手プレイヤーが集結!東京からクラシックをアツくするオーケストラ計画! - CAMPFIRE(キャンプファイヤー):title]

 

そしてこのプロジェクトを見つけてくれたあなたが、これを今まさに読んでくれているあなたが!これから動き始めようとする僕らのオーケストラのパトロンになってくれたら、クラシック音楽の入口のカギを僕らと一緒に回してくれたら、こんなに嬉しい事はありません。

 

わざわざこの拙いウザいブログを開いて読んでもらっている上、更にお願いをするのは烏滸がましいけれどそれを分かった上で、

 

お願いします。

 

このプロジェクトをもっと多くの人に届けられるように拡散して欲しいんです。

そして、僕らのコンサートに遊びに来てください。

チケットはクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」よりお求め頂けます。

 

僕らO.E.Tの船出に力を貸して下さい!

 

 

 【公演概要】
O.E.T結成記念公演"Opening "
出演者
ゲストヴァイオリン奏者: マキシム・ミシャリュク
チェロ奏者:三井静
指揮者/ピアノ奏者:大井駿
指揮者: 水野蒼生
会場 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール(渋谷駅から徒歩5分)
2017年7月20日木曜日18時30分開場 19時開演
全席自由 一律3000円
主催 O.E.T
お問い合わせ orchestra.ensemble.tokyo@gmail.com
O.E.T公式サイト http://orchestra-ensemble.tokyo/
公式twitter https://mobile.twitter.com/o_e_tokyo
公式Instagram https://www.instagram.com/orchestra.ensemble.tokyo/

東京ピアノ爆団 2ndリサイタル プレイバック No.5

本編を全て終えてザワザワと熱狂するフロアを前にステージからは再び轟音のピアノが鳴り響き始めた。

この夜を彩ってくれた3人のピアニスト、鶴久龍太、三好駿、高橋優介の3人6手によるヘンデルの「ハレルヤ」。誰もが一度は絶対に耳にしたことのあるヘンデルのオラトリオ「メサイヤ」の中の一曲だ。

元々はオーケストラと合唱による大編成の作品だが、タケルがこの日のために3人での連弾用にアレンジ譜を書いてきてくれた。

 f:id:aoi_muzica:20170518183516j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

フロアは笑顔でいっぱいだった。キラキラ輝くハレルヤは頭上の2つの大きなスピーカーからガンガンと鳴り響き、その音楽に所々から歓声が上がり、歌声もステージに飛んでくる。お客さんの中には歌手の方も何人かいたみたいで本気の合唱もちらほらと聴こえる。ミラーボールは相変わらずギラギラと回り続け、ステージには楽しそうに連弾する3人のピアニストと、観客を煽るバカなMCが1人、マイクをフロアに向け「ハレルヤ」でコールアンドレスポンスをしてはしゃいでいた。

 f:id:aoi_muzica:20170518183547j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

音楽は更にハレルヤのフレーズを畳み掛けてラストスパートをかけ、この大饗宴を終わらせる和音が鳴り響く。その和音が長く響く中で溢れる喝采はこの夜で最も温かさに満ちていた。

 

この日のお客さんの数は111人。椅子とテーブルがフロアに出ていたとはいえ、ほぼ満席の状態だった。

 

東京ピアノ爆団は別に今までのクラシックのスタイルを否定している訳では無くて、ただ新しい楽しみ方を提案しているだけだ。静かに音楽だけが生存する環境でじっくり集中して聴きたい人はコンサートホールに足を運べばいい。でもこんな風にワイワイ盛り上がってクラシックを聴きたい人の居場所もあったって良いじゃないか。

東京ピアノ爆団という新しい楽しみ方があったって良いじゃないか。

そんな思いから「試しにやってみるかあ」と昨年始めたこの企画も既に2回目を終えた。まだまだ可能性は無限大だし、これから大きくなる予感しかしない。

 f:id:aoi_muzica:20170518183906j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

さあ来年の3rdリサイタルはどんな企画にしようか。今から夏にメンバーとミーティングするのが楽しみでしょうがない。またすぐに新しいニュースを届けられるだろうから、それまで暫く待っていて下さい。そして、東京ピアノ爆団じゃなくても音楽はあらゆる所で楽しめるから、是非この機会にピアノ曲でも手に取ってみてはどうだろう。

 

最後に僕たちは肩を組み大勢のお客さんにお辞儀する。何度も何度も、その拍手に応えてお辞儀をした。

 f:id:aoi_muzica:20170518183655j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

 

どれだけの人が未だにピアノ爆団のプレイバックを読みたいと思っているか分からない中だったけれど、なんとか長い時間をかけてこうして書き終える事ができて良かった。

 

思えば今年立ち上げたこのブログ、今までピアノ爆団の事しか書いていなかったけれど、これでようやく次のテーマに進めそうだ。2月の雪の日の思い出を綴る中で季節は随分と動いていて、ここザルツブルクは既に初夏の天気となっている。いや、これまでに色んな事があったんだ。早くそれを書きたくてウズウズしている。

 

まあ何はともあれ、合計5本の記事となった東京ピアノ爆団2ndリサイタルのプレイバックはこれで幕を閉じます。

来年の3rdリサイタルでまたお会いしましょう。

 

東京ピアノ爆団 2ndリサイタル プレイバック No.4

「では、今夜の東京ピアノ爆団セカンドリサイタルの成功を祝って、、乾杯!」

 f:id:aoi_muzica:20170507212641j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

 

ステージで乾杯の音頭を取り、再び10分間のDJタイム。そんな転換の時間はあっという間に過ぎ去り、僕は最後のピアニストを呼び込みステージを後にする。


ピアニストを待つ拍手の中、暗転したステージの奥から聴こえてくるハーモニカのような音。

ゆらゆらとステージの袖からは鍵盤ハーモニカを吹きながら黒い影が歩いてくる。

彼こそがこのリサイタルのトリを務めた高橋優介だった。

 f:id:aoi_muzica:20170507215527j:imagePhoto by Souji Taniguchi

黒いシャツとスラックスの上に黒いパーカーという、これまた異様な出で立ち。

「あー良い曲だ。……これは失礼、わたくしピアニストの高橋優介と申します。以後お見知り置きを。」

ゆらゆらと吹いていた鍵盤ハーモニカをパタリと止め、軽くお辞儀した彼はポケットから颯爽とiPhoneを取り出す。

 

「えー、クラシック音楽史が誇る音楽の父、ヨハン、セバスティアン、バッハ、彼の手によって作られたー、えー、……あれ、これなんて読むんだっけ」


まさかのウィキペディアの朗読にフロア全体は笑い声で満ちていて、「頑張れー!」と冗談めかした掛け声が飛ぶ。そんな軽く楽しい雰囲気の中、あの曲は突然始まったんだ。

 

硬く冷たいハーモニーの流れから始まったその曲はJ.S.Bachのシャコンヌ(ブゾーニ編曲版)。
元々は無伴奏ヴァイオリンの為のバッハの変奏曲だけれど、それをピアニストのブゾーニがピアノ用に編曲した超絶技巧曲。

 

心の底辺を徐々に削り取られていくような、痛みを伴う変奏が続いたあとに、その世界は初めての明るみを見せ、長調で大らかに歌う旋律がそれまでに感じた痛みを和らげていく。

その後もこの曲は様々な表情や景色を僕らに見せてくれるのだけれど、もう僕には言葉に出来なかった。

 f:id:aoi_muzica:20170507212744j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

フロアでピアニスト達の演奏を聴いている時は、主宰でもあるが故にお客さん達が自然に楽しめるようにと率先して掛け声や歓声を送っていた僕だけれど、その演奏には僕も言葉を失った。

 

一音も無駄にしたくない。

全ての音をこの心に飲み込みたい。


東京ピアノ爆団で初めての「静寂」が生まれた瞬間だった。

 
高橋優介は18歳で東京音楽コンクールで優勝し、その後数多くのプロオケと共演する凄腕の若手ピアニストであり、過去に2度協奏曲で共演した尊敬する同志であり、僕と同い年の友人だ。

そんな彼の、東京ピアノ爆団の枠を超えた演奏を前にして誰もが「音楽を聴きたい」という純粋な気持ちで、ピアノ以外の音を葬ったんだ。

 

熱演が終わった後の爆発的な歓声はもう言うまでも無い。
誰もが惜しみなく拍手を送っていた。

 

その中で再びマイクを持つ優介。

「フランスの大作曲家、モーリス・ラヴェル。
彼は授かったその命を生涯独身で貫きました。」

拍手がまだ鳴り止まない中唐突に始まる次の曲のMCに大歓声は大爆笑に変わる。今度は彼の手にiPhoneは無い。


「おや?……ただいま私の時計を確認したところ、この会場は今現在、1855年、ウィーンの宮廷にタイムスリップしてしまったようです。
皆さん天井をご覧ください!我々の真上には豪華なシャンデリアが、絢爛と輝いております。今夜ご来場頂いた皆様、是非私めと、ワルツでも踊りませんか?」

 f:id:aoi_muzica:20170507212802j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

ミラーボールをシャンデリアに見立てた芝居仕立てのちょっとクサいMCに僕らは大いに笑い、拍手を送り、そのワルツが始まるのを心待ちにする。

 

ラヴェル作曲の「ラ・ヴァルス」。
ヴァルスとはフランス語で「ワルツ」の事で、音の魔術師と言われるラヴェルがウィンナーワルツをモチーフに作曲したワルツのパロディ。

低音がおどろおどろしく静かに轟きながら始まるこの曲、とても出だしはワルツには聴こえない。
低音の霧が全てを隠し、ワルツどころかなんの景色も見えない真っ暗のまま曲は進んでいく。
それでも少しずつ霧は薄れ始めてその切れ目から優雅な響きが聴こえ、遠くにはうっすらと舞踏会の灯が見え隠れしている。

 

しばらく経って霧は完全に消えて豪華絢爛なワルツが流れ、それをツマミにお酒を楽しむお客さん達。ああなんて素敵な時間の過ごし方なんだろう。心が洗われていく。

 

だが、今夜は東京ピアノ爆団のリサイタル。そのリサイタルがこのままお上品に終わるわけがなかった。

 

気持ちよくゆったり音楽を楽しむオーディエンスに突如殴りかかる力強い低音、その直後には尋常じゃない大量の音の粒が群れを成して僕らに向かって飛びかかってくる。
もはやそこにワルツの一定のリズムは無くて、狂瀾の中にひたすらに踊り狂う群衆が優介のピアノから溢れ出す。

 f:id:aoi_muzica:20170507212825j:imagePhoto by Yukino Komatsu 

「皆んな立とう!踊ろうぜ!」

僕は知らぬ間にフロアの最前列のど真ん中に飛び出してそう叫んでいた。

 

キラキラと輝く豪華なシャンデリア。今僕らの前で鳴り響いている音楽にそんなお上品な言葉は見当たらない。

その狂気にも似た舞踏を産む音楽はこの場の空気そのものをぐわっと動かし、操り、僕らの心を半ば強制的に踊らせてしまったんだ。

 f:id:aoi_muzica:20170507212920j:imagePhoto by Aoi Mizuno  

僕はお客さん達の手を取って立たせてまわる。

舞台はより一層明るくなって僕らの頭上には再びミラーボールがギラギラと回り出す。

長く続く緊張感に満ちたクレシェンドを全て乗り越え、ワルツは轟音の和音と共に、遂に頂点に達する。

その瞬間に湧き上がるフロアからの大歓声と拍手、収まることを知らないピアノの響きはさらなる快感を目指して最後までフロアを縦横無尽に駆け巡り続けた。

 

終演後、歓声はいつまでも一向に収まらない。

カーテンコールで再びヒョコッと舞台に現れる優介。あどけない笑顔で軽く会釈し、彼は再び鍵盤に優しく指を置いた。

 

アンコールに優介が弾き始めたその温かく美しい旋律は、イギリスの作曲家エルガーの「愛の挨拶」の即興アレンジ。

極限にまで熱狂した僕らの心を今度は優しさで包み込むような、そんな響きに目頭が熱くなった。

 

バッハに黙らされて、ラヴェルに熱狂させられて、そして今はエルガーに優しく包まれているだなんて、なんてドラマチックな30分間だった事だろう。

 

そんな優しい演奏が終わった後も、フロアからの拍手喝采は収まらない。今夜、この場におざなりな拍手なんてものは何処にも無くて、歓声を上げる皆んなの笑顔は本当に美しい限りだった。

 

こうして僕ら東京ピアノ爆団の本編は終わり、舞台にツルとタケルと優介、3人のピアニストが初めてが同時に揃った。


歓声が未だに響く中、3人は肩を並べてピアノに向かう。それぞれ3人の合計30本の指が鍵盤に置かれ、アンコールが始まろうとしていた。

 

続く。

東京ピアノ爆団 2ndリサイタル プレイバック No.3

転換中、ステージでDJ中の僕の前に広がるフロアは本当に明るい雰囲気で満ちていた。

所々で響く笑い声、ピアノの感想を語り合うカップル、お酒のお代わりを求める人々で奥のバーカウンターには楽しそうに歓談する長い行列が出来ていた。

 

そんな10分間はあっという間に過ぎ去り、そして始まるセカンドステージ。


「トーキョー!ピアノ、バクダーンへお越しの皆さま、、タケルだぁーー!!」

 

上のセリフはお調子者キャラの僕が発したものでは無く、三好駿本人の登場の際の一言。

長身で長髪のタケルは、何処で買ったんだとツッコミたくなるような生地全体がゴールドのシャツにグレーのベストという、ド派手な衣装を当たり前のように着こなして堂々舞台に現れた。


まだ舞台に現れただけだというのにタケルはオーディエンスの心をしっかり掴んでいて、お客さん達はその謎のゴールドマンから完全に目を離せなくなっている。

f:id:aoi_muzica:20170425022114j:image Photo by Hirokazu Takahashi 

「見ての通り聞いての通りお喋りですので、東京ピアノ爆団で1番喋るキャラクターということで、去年は喋り過ぎた感があって、それで今年に関しては、もう逆に喋り倒してやろうと思っていまして、、えー、年も明けて……あっ、皆さまあけましておめでとうございます。もう2月になってしまいましたけども〜……」

 

楽しそうに喋り倒すタケル、このまま彼のお喋りは「ラプソディとはなんぞや」というテーマに変わりどんどんと展開されていく。

 

「なんか、ファンタジーなんだよね、形式に囚われていなくて好きなように物語が展開していくような」

 

「じゃあ弾きます。ヨハネス・ブラームスの2つのラプソディでございます。」

 

そうして舞台は暗転して真っ暗闇が生まれた。その暗闇に支配された張り詰めた空気の中、ステージ奥の壁がぼんやりと紅く照らされ、タケルの演奏は始まった。

 

さっきまでの陽気なお喋りの空気はどこへ行ったのだろう、暗闇を切り裂くような鋭利な高音から始まった1曲目のラプソディ。

その音楽は紅く照らされながら、思いもしない道筋を辿って展開していく。

 f:id:aoi_muzica:20170425022138j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

それは確かにブラームスが書いたラプソディだ。だけれど、タケルの演奏は僕のよく知るそれとは完璧に違った音楽で、なんとも不思議な気分になった。

 

幾度となく現れるテーマは毎回その姿を変容させて彷徨い続けたまま終わりを迎える。

紅く光るステージがどんどん暗くなり、ふたたび暗闇が訪れると同時に一曲目が終わった。

 

その次の瞬間、今度は舞台が青く照らされ轟々と響く力強い低音と共にもう1つのラプソディが始まる。

 

一曲目が「暗闇を切り裂く鋭利な曲」なのだとしたら、この曲は「岩壁を飲み込む荒波のような曲」とでも言うのだろうか。

 

彼の演奏は自由そのものだった。ブラームスの譜面を超えた自由。
その場の空気、そしてピアニストの生きるような演奏。計算と解釈で作り込まれただけじゃない。

空気によって彼が揺さぶられた思い、この雪の夜の吉祥寺のスターパインズカフェの舞台という今ここにしかない生きた音楽を彼はブラームスを通して表現した。

 

その演奏は僕に疑問を与えた。

そして次の瞬間に僕はそんな疑問を覚えた事を恥ずかしく思った。

 

「ここは普通のピアノリサイタルじゃない、東京ピアノ爆団のリサイタルなんだ、音楽の楽しみ方を広げる為に僕が彼らと作り上げた空間じゃないか!あぁ俺はなんてつまらないクラシック野郎なんだ。」

 

自分で自分に言い聞かせた。

 

現に彼の弾くラプソディをお客さん達は一音も逃すまいと聴き入っていて、僕の中に入って来た疑問なんて如何に下らないかを思い知った。このラプソディだって確かに僕ら東京ピアノ爆団の存在意義のひとつで間違いなかった。

 

音楽の力の前に理論立てなんて通用しない。感動させてしまったなら音楽の勝ちだ。

 

きっと僕は彼の弾いたこのラプソディを一生忘れないだろう。その演奏後の拍手喝采の景色も。

 

f:id:aoi_muzica:20170425023007j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

タケルもまた僕の高校の先輩で、本気で音楽を愛する者同士で、また音楽を欧州で勉強したもの同士でもある。

実は東京ピアノ爆団を作ろうと僕が初めて声を掛けたのも彼で、快諾してくれた彼と僕の間に温度差が無かった事がこのイベントが成功した1つの理由だと思っている。

彼もまた新しい音楽の可能性をいつも探していたんだ。

 

 

その後に彼が弾いたドビュッシーの「喜びの島」では会場はダンスホールと化していて、回るミラーボールに彼の金色のシャツが反射して煌めいている。

 

フロアには立ち上がって聴くお客さんも増えてきて、音楽が絶頂に達する度にそこら中からピアニストに「Yeah‼︎」と掛け声が掛かる。

 

「恋しちゃってルンルンなんて、そんなモンじゃない!ドビュッシーがW不倫している時にその情事を書き取った音楽なんです。」

 f:id:aoi_muzica:20170425022259j:imagePhoto by Hirokazu Takahashi 

そんなインパクトのある内容のMCを聞いた後に、僕らはその、「W不倫の情事の音楽」で踊り揺れて感激している。

そんな事を考えたら面白くて仕方が無かったけれど、やっぱり音楽の力相手じゃ僕らは勝ち目なんか無いさ。

 

その曲の背景がなんだろうと、悔しいけれど感激して涙は出るし、自然と身体は踊り出してしまうのだから。

 

そんな音楽の力に支配されたまま、僕の身体は喝采が起きるまで揺れ続けていた。

 

 この東京ピアノ爆団2ndリサイタルが更に劇的な夜になるなんて、この瞬間の僕には知るよしもなかった。

 

続く

 

東京ピアノ爆団 2ndリサイタル プレイバック No.2

 

「それじゃあ大きな拍手でお迎えください、鶴久竜太!」

鳴り響く歓声の中、ピアニストのツルはすうっと舞台に現れた。

 

その出で立ちは紺のスーツにワインレッドのネクタイというスマートなルックス、僕のような自己主張の激しいうるさい存在感はどこにも見当たらない、気持ちがいいほどの自然体だった。

そんな大人の落ち着いたカッコよさを醸し出す彼にその場を託し、僕は舞台を後にした。

 

彼の演奏を聴き逃すまいと急ぎ足で客席へと移動する舞台裏の廊下。
既に心地よいピアノの音は響き始ている。

フロアの扉を開けるとそこには僕がずっと夢みていた景色が広がっていた。

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Photo by Souji Taniguchi

ぼんやりと心地良く青白い光が反射するステージにはグランドピアノが一台。ピアニストがバッハを弾いている。

そのピアノの音は頭上の2つの大きなスピーカーからライブハウスのフロアに響き、そこにいる100人を超えるお客さん達はお酒を片手に音を楽しんでいる。


バッハのフランス組曲の第6番から、アルマンド。

 

丁寧に滑らかに紡がれていく音の粒は僕らの心を潤していく。それは誰もが待ち望んでいた音だった。

泉に流れ込む湧き水のように、自然だけれどそこに存在することが奇跡のよう。その音の一粒一粒をずっと抱きしめていたくなるような優しさと温かさ。その全てが僕には本当に愛おしかったんだ。

 

インパクト勝負の僕のオープニングステージとは真逆で、ツルは音楽を自然にその場の全ての人に届けていた。

 

「えー、はい。本日はお足元の悪い中来て下さり本当にありがとうございます。」

 

バッハが終わりマイクを握ったツルは、本当に丁寧なMCを始めた。

彼の前に舞台上でバカみたいに暴れていた僕との対比にフロアからは笑いが起きて、和やかな雰囲気が生まれる。

 

「続きましてはドビュッシーのベルガマスク組曲をお送りします。」

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Photo by Yukino Komatsu 

そう彼が言うや否やフロアから上がる期待の歓声。

そして始まるベルガマスク組曲の第1曲「プレリュード」。

 

心地よい冷たさのドビュッシーの音楽は、予想もしないハーモニーの行き来で僕らを優しく酔わせるウィスキーのように、うす明かりのフロアに緩やかに流れ込んでくる。

心地よい気怠さを孕んだ舞曲「メヌエット」ですっかりドビュッシーの語り方に慣れた僕らは第3曲「月の光」へと向かった。

 

まさに月光の如く青くぼんやりと光るステージで、軽やかに空気に浸透していく「月の光」に聴き惚れるお客さんの前に、

一体どんな風景が広がっているのだろう?

一体どんな月の光を見上げているのだろう?

そんな事を思いながら僕はフロアの後ろの方で独りで気持ちよく揺れていた。

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Photo by Hirokazu Takahashi

僕らは偶然この場に居合わせた百人超のオーディエンスと共にこの音楽を共有している訳だけれど、まるで独りで聴いているような、美しい淋しさを僕はほろ酔いで楽しんでいた。

 

彼の演奏は本当に誇張せず、そこにある音を丁寧に鳴らしていた。それは深呼吸したくなるような鮮度の良い音。

 

最後の一音まで常に紳士で、優しい彼の音のままで、それでいて軽やかな可愛さを見せた第4曲「パスピエ」が終わり、ツルのベルガマスク組曲は完成した。

 

わっと鳴り響く拍手と歓声。それに混ざってお客さん同士が乾杯するグラスのぶつかる音なんかも聴こえてくる。

 

「最後にピアノ爆団をイメージして一曲用意してきたので、それで最後にしたいと思います。今日はありがとうございました。」

 

爆団らしい曲。
そういって紹介された曲はカプースチンの即興曲だった。

ニコライ・カプースチンは20世紀のロシアで活躍した、ジャズとクラシックをミックスした作風が人気の未だ現役の作曲家。

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Photo by Yukino Komatsu

ツルは僕の高校の先輩で、ジャズピアニストとしても活躍している。そんなクラシックとジャズを行き来する彼だからこそ映える一曲で、水を得た魚のようにアグレッシブなリズムの上で次々とジャジーな不協和音を奏でていく。

でもその曲はよく聴けば聴くほどにクラシックで、その緻密な構成はまるでプロコフィエフやストラヴィンスキーのような20世紀のロシア近代の音楽のそれと同じ空気を感じた。

 

最後までチャーミングで最高にクールだったその男は弾き終えると、フロアからの歓声に一礼し、颯爽と舞台裏に帰っていった。

 

こうして、東京ピアノ爆団2ndリサイタルの本編は最高にカッコよく始まったんだ。

 

続く。

東京ピアノ爆団 2ndリサイタル プレイバック No.1

ちょうど1ヶ月の時間がポカンと空いてしまった。

 

いや、色々な事があったんだ。その色々は僕のこれからの人生の大きな宝になる色々で、このピア爆のプレイバックを終えた頃にはすぐにここに書くだろう。

早くそれを書きたくてしょうがないし、季節は既に葉桜を迎えているわけで、雪の日の回想を綴るのには既に充分季節外れになっている。

 

どれだけの人が未だにピア爆のプレイバックを読みたいと思ってくれているかは分からないけれど、これを書き切らないと僕は今のこの春の日々を心から満喫出来ない気もするので、桜の無いザルツブルクの少し淋しい春の夜にこれを急ぎ書いている。

 

それじゃあさくっとあの日に戻ろうか。

 


2017年2月9日

 

その日の吉祥寺は終日天気が悪かった。
朝からシトシトと降っていた雨は昼過ぎに湿っぽい雪に変わり、アスファルトにぶつかってはべちゃっべちゃっと下品な音をあげながら飛び跳ねては溶けていった。

 

その夜に繁華街から少しだけ外れた暗く寒い路地の立体駐車場の下に出来ていた地下へと続く行列。
行列の横には 東京ピアノ爆団 2ndリサイタルと書かれた看板。

 

吉祥寺の老舗のライブハウス、スターパインズカフェ。その夜は本当に幅広い層のお客さんが集まっていた。カップル、老夫婦、娘さんを連れた仕事帰りのお父さん、大学生っぽい若者のグループ、それと1人で来られた老若男女のお客さんも多かった。

 

地下に下ってライブハウスに入ると、天井が吹き抜けになった開放的な空間が現れる。
2階に分かれた客席と、どこからでも見渡せるステージにグランドピアノが一台。

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Photo by Aoi Mizuno

 

フロアからの開演を待つ人たちの楽しそうな喧騒は楽屋にもよく響いていて、その音はとても心地よく僕らの緊張をすうっと高揚感に変えてくれていた。

 

20:10。10分押しのステージの袖にやけに厚着の衣装を着込んでスタンバイする。
フロアに流れる音楽がフェードアウトしてゆっくりと照明も消えて真っ暗になる。
お客さん達の喧騒もそれと一緒に消えていって空気が一気に冷たくなる。


1秒間が重たい。

その数秒の重量を愉しんでからステージへと歩き始めた。今日は指揮者や奏者としてではなく、DJとして、MCとして。

 

ステージの上手袖に設置された簡易DJブース。その手前、ピアノにぶつからないスレスレの所に置かれた椅子とテーブル。

 

今日のような冬の天気を思って震えて顔をコートに埋めてみせ、周りを見回して椅子を見つける。丈の長い外套とマフラーを畳んで椅子に掛けて座り、内ポケットから手帳、胸ポケットからペンを取り出す。

 

 

「拝啓 音楽の歴史を作ってきてくれた僕のヒーロー達。随分と時は流れ、21世紀が訪れてから16年が経つこの頃、そちら様におかれましては天国、か、地獄かは知らんけど、いかがお過ごしでしょうか」。

 

ペンを走らせる音と自分の声に合わせての小芝居から、2年目の東京ピアノ爆団、2ndリサイタルは静かに幕を開けた。

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Photo by Hirokazu Takahashi 

 

「あなた方には縁のなかったこの東の島国の日本で、現代の音響技術を導入して生きた自由な空間であなた方の音楽を楽しんで貰えるイベントを開催するに至りました。題して……」

 

ここで筆が止まる。

 

DJは考える。このイベントの名前を。

 

「ピアノ、で、東京? それからー、ライブハウス…んー。」

 

「あぁでも"爆"入れたいなあ」

 

所々でクスクスと笑いが起きている。

 

「爆、ピアニスト軍団。

 

あっ。


爆…団?、


東京ピアノ爆団?」


閃いた瞬間に鳴り響くドスンと思い金属音のSE。

鳴り始める「トーキョーピアノバクダン」というアテンションと赤く点滅するサイレン。

 

DJは突然の出来事に驚き困惑に満ちた顔で辺りを見回している。

金属音のSEは一定のリズムを刻み始め、遠くからドラムの16ビートが聴こえてくる。

ビートの音量は増していき、絶頂を抜けるとSEは、軽快な東京ピアノ爆団のテーマへと変貌する。

 

そのテーマを聴いて全てを理解したDJは椅子とテーブルを舞台脇に片付け、ピアノ椅子の位置を確認し、閉じたグランドピアノの蓋を開け、リサイタルの準備を始める。

 

因みにここで流れるピア爆のテーマ曲はクラシックをかすりもしないコテコテのエレクトロだ。
それはクラシカルDJの作るオープニングの後半へと繋がる。

 

2分ほどのテーマ曲が終わると同時に間髪入れずにDJが用意してきたエクスクルーシブ「Time Machine MIX」が流れ出す。

 

「21世紀の音楽から、18世紀の音楽まで、このTime Machine MIXで皆んなで戻っていきましょう!」

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Photo by Hirokazu Takahashi

 

コテコテのエレクトロだったピア爆のテーマから、Robert Glasper Expeliment、fun.、上原ひろみ、Norah Johnes、Oasis、MJ、Queen、、一曲5秒くらいのペースでひたすら時代を遡っていく。60年代のElvisを越えて Sonny Rollinsのビバップなジャズ、20世紀前半のアメリカのミュージカルを越えて現れる近代、後期ロマン派のずっしりどっしりな交響楽や軽やかな舞曲。

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Photo by Souji Taniguchi

 

時代はどんどん戻っていきベートーヴェン、ハイドン、モーツァルトの"クラシック"へ辿り着く、そして最後にバッハのゴルドベルク変奏曲の主題が静かに気持ちよく空気に振動していく。

 

2017年から1742年までを6分間で駆け抜けたライブハウスのフロアには自然体でそれが当たり前のようにバッハが流れている。

 

「ジャンルなんてものは無くて、ただただ、どの時代でも音楽は音楽なんだ」。

 

さっきまで暴れていたDJの静かな言葉の前には"クラシック音楽"を身構えて聴くオーディエンスの姿はもはや見当たらない。

 

僕が求めていた空気はこの10分間のオープニングで出来上がった。このオープニングの構想は2ヶ月前から練っていて、この10分間の為の音源作りや稽古に多くの時間を費やしていた。

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Photo by Souji Taniguchi

だからこそ本当に嬉しかった。楽しそうなお客さんの顏、顏、顏。それをしっかり見回して今日のイベントの成功を確信して僕は1人目のピアニスト、鶴久竜太を紹介して舞台を去った。

東京ピアノ爆団 2ndリサイタルを終えて

もうあれから一ヶ月が過ぎている。

今はふたたび日本から8000km以上はなれた欧州の夜の中で僕はiPhoneの画面をペタペタとさわって文字を入力し、拙い文章をつづっている訳だけれど、あの雪の夜の出来事が幻想じゃなくて現実だったってだけで今ここザルツブルクのまだ続く寒さにも目を瞑れる。

 

1ヶ月過ごした東京をはなれて1週間ほどが過ぎ、新しく始まった学期の中で新しい日々を必死に生きている。それでもあの夜の事を思わなかった日は1日もない。


今までに何度もその日に向けた思いをこのブログに書き殴ってきて、それを終えた今まとめの記事を書かなくちゃと焦りつつも、あの日を終えて僕の思いは言葉を通り越してしまった。思いに言葉を追いつかせることには時間がかかるみたいだ。

 

来場してくれた多くの人にもアツい思いの感想をたくさん頂いた。長文で思いを伝えてくれた人や、思いが強過ぎて朝まで電話でアツい感想を語ってくれた人までいて、終演後も上演中に引けず劣らずの刺激をたくさん受けて、常に僕の脳内はあの夜の事が反芻して、更に僕の思いは言語の概念を突き抜けていく。

 

そんな脳内万年リサイタルな日々もようやく落ち着いて物理的にも距離がはなれた今、これをようやく書き始める事が出来ている。

 

2017年2月9日、東京は吉祥寺のスターパインズカフェで催したライブハウスでのピアノリサイタル「東京ピアノ爆団 2ndリサイタル」。

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Photo by Aoi Mizuno

それを終えての総括を、当日惜しくも来れなかった数万人のファンのためにも、あの雪の夜の吉祥寺で何が起こったのかを事細かに僕の主観だけれど、ゆっくり語っていきましょう。

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Photo by Hirokazu Takahashi

そのうち動画のアーカイブが出るはずだから、とりあえず今は文章での東京ピアノ爆団の追体験にお付き合いくださいな。